3Dプリンター(型技術・パンタグラフ 2013年)
3Dプリンター
九州工業大学 楢原弘之
ここ最近,3Dプリンターがマスコミで頻繁に報道されている.日本のマスコミが騒ぐようになったのは,クリス・アンダーソンという人が21世紀の産業革命の道具として3Dプリンターを紹介する「MAKERS」という本が出版されたことも大きいようだ.3Dプリンターの技術は20年以上前から存在していた.しかし最近基本特許が切れたために,雨後の竹の子のように色んな種類の格安3Dプリンターが販売されるようになった.日本の報道では,家庭にも3Dプリンターが出現という紹介で,「便利ですね,すごいですね!」と芸人コメンテータ交え,でもそれはマニア向け物珍しさレベルでの報道というのが私の印象である.
一方米国はこれを産業の柱にしようと,本気の程度が違うようである.オバマ大統領は2012年の夏に,この3Dプリンター技術を国の産業育成の重点技術として位置づけて,数十億円規模の連邦投資を実施すると宣言している.実際のところ,ボーイング787の航空機部品の一部や義歯などでも,産業用3Dプリンターの技術で作られるようになってきている.今注目されている再生医療にしても,人工臓器を製造するのに,この3Dプリンターを使った研究が進められている.この日米の温度差,日本では過剰な期待と現実の落差から,一過性のブームで下火となってしまわないだろうか.
それならいっそのこと,3Dプリンターを子供達に自由に使わせる取り組みを進めてはどうだろうか?例えば親の役に立つ何かを作って親をびっくりさせる.そういう「身近の誰かの役に立った」という強烈な成功体験の機会を社会がたくさん用意することが,将来の日本のための,ものつくり人口を増やすことにつながるだろうと思う.
さて話は変わるが,最近自分が老眼になってきているらしいと気付いた.簡単な機能チェックをしてみると,片目が少々怠けており,両目を開けていても片目だけで見ていることが分かって少々ショックだった.眼鏡は見え方を補いはするが,怠けた目の機能を回復させるわけではない.工場ではジグを3Dプリンターで作る事も行われ始めており実用レベルで使えている.人間様用のジグ,すなわち老眼になって怠けた眼の機能回復用ジグなどが3Dプリンターでできたら良いのにと,都合の良いことを思ったりする.開発されたテクノロジーも,使われるテクノロジーとなるには最終的には消費者のニーズが重要な決め手となる.出発点が異なれば築き上がる社会基盤も変わって来ますよね?
将来,弱った体も取り替えるリプレースの社会と,日々トレーニングを促す鍛錬の社会,読者の皆さんでしたら,どんな社会を求めますか?