アバター(パンタグラフ)(型技術、2023 )

アバター

九州工業大学 楢原弘之

 

アバターと聞けば、大方の人は、映画アバターを思い浮かべるのではないだろうか。ジェームズキャメロン監督による2009年、2022年のSF映画である。この映画の中心となっているのが、映画のタイトルにもあるように、人間のDNAと掛け合わせて造られた人造生命体アバターである。元海兵隊員のジェイク・サリーは、戦傷のために車椅子の生活を余儀なくされていたが、アバターに意識を移して異星人と接触するというミッションを与えられる。アバターで人生を生き直す、そんな未来を見せてくれた映画であった。

でも、私が注目したのは別のアバター。新型コロナが世界的に蔓延してまだ収束を見せない中で、ABBA(アバ)が40年ぶりに復活したというニュースが2022年に世界中を駆け巡った。海外コンサートもままならない世界の状況で「アバター姿」でコンサートを開催するという。アバのアバターである。

アバはスウェーデンのポップ・グループ。1970年代に一世を風靡し、1982年に解散した。若い読者はご存じないかもしれないが、メリル・ストリープ主演、2008年のミュージカル映画「マンマ・ミーア!」で使われた音楽は、すべてこのグループの曲といえば判るかもしれない。

このアバのアバター実現には、SF映画で有名なジョージ・ルーカス氏が設立したインダストリアル・ライト&マジック社が関わっている。アバ解散前の当時の映像と、モーションキャプチャー技術を駆使して、当時の若かりし頃の姿でアバターを作り上げたらしい。アバターになれば、たとえ伝染病が蔓延しようとも、国境が封鎖されようとも、全世界を駆け巡る事も技術的に可能になることを示してくれた。本人たちは、まだまだ元気とはいうものの、すでに70代。一世を風靡した当時を偲んで、永遠に若作りのアバターのほうが、世間受けは良さそうである。

さて、話は変わり私事になるが、何かの記事や論文を書くことが仕事柄多い。「それでは顔写真をお願いします」と出版社から言われる。毎回撮り直して準備するのも面倒なので、この前使ったのはどれかな、とPCの中から探して、はいどうぞと渡す。そんな事を繰り返していると、いつの間にか使い回しの状態が続いてくる。

メディア上の顔写真は、私にとっては私の分身と同じ。これぞ自分にとってのアバターである、と思い至る。ちょっとだけ自分が誇らしく思う。それからは、特に何か条件を付けられないと、アバター君に登場してもらおうと、だんだんと厚かましくなってくる。

そんなある日、機械学会からフェロー認定されたのとの通知を頂いた。とても有難いことである。メールの末尾で気になる一言が書かれてあった。

本会ホームページにてフェローに認定された皆様を広く周知いたしたく、貴台をご紹介するページを作成する予定でおります。顔写真データを添付の上、本メールアドレスへ返信を…

ではお決まりのあばた写真を出そうと思った途端、ふとあることに気づいた。フェローは、学会としても対外的に大事な役割。実物と面会したら驚くかも。信頼が….。いろんな思いが駆け巡る。

「写真よりお若いですね」と、初対面で良く使う、お世辞とも何ともいえないお決まりの挨拶を、完全に抹殺させてしまう事になりそうだ。言葉に詰まるだろうな…。 有名人の真似をして、永遠に若いアバターでは、我々レベルでは、どうも世間受けは悪そうである。

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