個人認証あれこれ(型技術・パンタグラフ 2006年)

個人認証あれこれ

九州工業大学 楢原弘之

 昔のパスポートには自分のサインを書く欄が2ヶ所存在したのをご存知だろうか?

私が約20年前に初めてパスポートを作った時は「所持人自署」と「SIGNATURE OF BEARER」のサイン欄が別々にあった。今は一つの欄しか無いが、当時の日本人の常識ではサインとは英語で書くものだった。

当時、ある有名教授が、記号か絵としか思えないサインを使っていた。ならばと、私は漢字を自分のサインに決め、パスポート申請窓口に出向く。パスポートセンターの係員は、私の申請用紙を見るなり、「あっ、両方とも漢字で書いちゃったの!もし外国で何かあっても自分の責任でやってくださいね!」と言うのである。私は冷や汗たらたらパスポートを受け取ったものだった。

その時以来、私は「自己責任のXデー」を待ち構えていたが、昨年の海外滞在までは全く何の問題も無く、このサインで過ごさせて頂いていた。さてその海外滞在先とは米国なのだが、身分証明書代わりに使える車の免許を取る時の話である。

車の免許には、試験を受けるのとは別にソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN)というものを取得する必要がある。早速事務所に出向いて申し込むと、2週間ほどしてオフィスから手紙が届く。「あなたのサインはアルファベットでないので登録できません。もう一度提出しなさい。」

仕方なしにもう一度オフィスに出向いて係の人にその手紙を見せると、「ここはアメリカだから当然さ」と一言。私のパスポートにどんなサインが書いてあろうともお構いなし。私は、下手くそなアルファベットでサインを書きなぐり係員に渡す。半分あきれて適当に書いたので、今ではどんなサインだったか思い出せない。大丈夫かな?

その後試験にも合格し、届いた免許証には、アルファベットの自分の名前の横に、変な顔で写った写真と、下には端の切れた自分の漢字サイン。こんなんで使えるのかいな?でもこれで過ごせたので、アメリカは大雑把な国かもしれないと思う。

さて、海外滞在も3ヶ月以上になると、在留届を日本領事館に提出する義務がある。私は手軽な電子出願を選び、登録する。「あなたの届出を仮受け付けました。」とのメッセージを貰う。

さて帰国が近づき、今度も電子出願で帰国届けを出そうとすると、「在留届が見つかりません」とのメッセージ。仕方なく新規に入れなおしてみるが「あなたの届出は登録済みです」との返事。あれれっ。外務省にメールを送るが返事なし。

帰国後2ヶ月して、ふと電子出願のページを見ると、新たに「キーワード再発行」のボタンができている。そう、私はキーワードを忘れていたのだった。パスワードと新キーワードを打ち込み、めでたくログイン。生身の私のみならず、ネット上の私も、これでようやく帰国を果たすことができたのだった。

 

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