オンリーワン(型技術・パンタグラフ 2002年)

オンリーワン

九州工業大学 楢原弘之

 最近、自分の周りで、「オンリーワン」というキーワードを、なぜかよく聞くようになった。その言葉を発している一人に、元ヤオハン会長の和田一夫氏がいる。私が勤める九工大の情報工学部のキャンパスは、福岡県の中ほどの飯塚市に位置するが、この和田氏は、東京からわざわざ、ここ飯塚市に移り住み、活動拠点にしているのである。

このようになったきっかけは、ベンチャー企業を起こした本学部の卒業生が、和田氏の講演を聞き、1通の手紙を出したことに始まる。和田氏は「飯塚をアジアのシリコンバレーにしたい」という若者の熱意とエネルギーに感動して、 (株)ベンチャー・ビジネスファンドを飯塚に設立し、全国での講演やインターネットによる経営相談等を始めている。

和田氏は、会社の規模でも売上高でもなく、「オンリーワン」であることが重要だと説く。これまで自分の手掛けてきたことが「オンリーワン」であり続けたからこそ、ヤオハンが倒産しゼロの状態になった後でも、周りから注目を集め続けることができ、現在の自分が存在していると言うのである。

さて「アジアのシリコンバレー」の夢に対して、行政も積極的に後押しを始めた。今年、飯塚市はTRY VALLEY構想を掲げ、特色ある情報産業都市づくりを目指そうとしている。既に飯塚市は、国立私立合わせて約5000名の理工系学生の学ぶ学園都市となってきているが、さらに現在最もエンジニアが不足していると言われているJava関連技術者を育成し、関連研究部門を集積させる計画である。和田氏の周りには、本学部を卒業した20代の若者達が集い、「アジアのシリコンバレー」と「不死鳥伝説(和田氏の復活)」の夢を実現すべく、奔走の毎日を過ごしている。

さて、本学部のことを振り返れば、16年前に我が国で唯一の情報系総合学部として設立された「オンリーワン」の時から、今は数ある情報工学部の一つに変わってしまっている。

今年、飯塚キャンパスに、「情報創成工学専攻」の大学院コースが新しく設置された。この大学院では、社会や企業のニーズ・課題を積極的に拾い上げて、情報技術を使って問題解決をすると共に、ニーズから基盤技術を作り上げていくことを目標としており、全国初の試みを始めようとしている。

オンリーワンに熱中する若者こそが21世紀の日本を変えていく。その環境を整えることが、我々大学人に課せられた使命であろう。

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